農地転用、再建築不可、借地権… 複雑な物件調査の実例紹介

不動産を購入・売却・仲介するうえで欠かせないのが「物件調査」です。土地や建物には一見すると分からない“落とし穴”が潜んでおり、それを見抜くためには専門的な知識と丁寧な調査が求められます。

特に、農地転用再建築不可借地権といった条件が絡む物件は、そのままでは希望通りに活用できないことも多く、トラブルの元になりがちです。

この記事では、実際にあった調査事例をもとに、どういった点に注意すべきかを解説します。不動産の購入や売却を考えている方、不動産業界を志す方にも役立つ内容です。


ケース1:農地転用に失敗、購入後に利用できない土地

■ 事例概要

ある地方都市に移住を希望していたAさんは、家庭菜園や自宅兼カフェを開業するために格安の土地を見つけ、契約前に「市街化区域である」ことを確認。売主や仲介業者の説明もあり「建物も建てられる」と安心して購入を進めました。

しかし、実際に建築確認を申請しようとした際、「農地転用許可が必要」と市の農業委員会から指摘を受けました。

■ 問題の本質

土地の一部が農地法上の農地に該当しており、農地転用許可を得なければ建築が不可能だったのです。しかもその地域は「農業振興地域」に指定されており、転用許可を得るには多くのハードルがありました。

Aさんは「市街化区域なら農地転用はいらないと思っていた」と混乱。仲介業者も「登記上は宅地と書かれていたので大丈夫だと思った」と説明しましたが、これは**登記簿上の地目と現況(実態)**の違いを理解していないことによる典型的なミスでした。

■ 教訓

農地の売買には特に注意が必要です。たとえ登記簿に「宅地」とあっても、農地法による制限がかかっている可能性があります。市町村の農業委員会や県の農地課での確認が必須です。


ケース2:再建築不可物件を買って後悔したBさん

■ 事例概要

Bさんは都内の古家付き土地を「更地にして建て直す予定」で購入。ところが解体後、建築確認申請を行ったところ「再建築不可」のため建物が建てられないと分かりました。

■ 問題の本質

その土地は、建築基準法上の接道義務を満たしていなかったのです。幅員4m以上の公道に2m以上接していなければならないというルールに対し、対象地は私道にしか面しておらず、かつその私道に法的な位置指定がされていませんでした。

また、その私道は隣地住人との共有私道で、通行権はあっても「建築に必要な接道義務を満たさない」と判断されてしまったのです。

■ 教訓

再建築不可物件は、見た目では分からない法的制限があります。公道かどうか、接道義務を満たしているか、建築指導課などでの調査が欠かせません。購入前に建築士など専門家と現地確認を行うことをおすすめします。


ケース3:借地権付き建物を購入してトラブルに

■ 事例概要

Cさんは、築年数の割に価格が非常に安い一戸建てを発見。駅からも近く「掘り出し物だ」と感じて即購入を決意しました。しかし、購入後に「土地の所有者は別人」であり、自分は借地権付き建物を買ったことに気づきました。

さらに、借地権の契約は更新期限が迫っており、地代改定や建て替え承諾料の支払いが求められることに。

■ 問題の本質

建物が安かった理由は、土地が所有権ではなく借地権だったから。しかも契約書の確認が甘く、地代・更新料・譲渡承諾料・建て替え時の承諾などが細かく定められていました。地主が高齢で話し合いもスムーズに進まず、建て替えの際には法外な承諾料を請求される事態に。

Cさんは結局、計画していたリノベーションも断念し、物件を安値で手放さざるを得ませんでした。

■ 教訓

借地権付き物件は、土地の所有者との関係性や契約内容が非常に重要です。単なる建物の売買に見えて、実は地主との交渉力や契約知識が問われます。事前に借地契約の内容を精査し、必要なら弁護士や不動産専門家に相談を。


ケース4:境界が確定していない土地のトラブル

■ 事例概要

Dさんは住宅用地として郊外の整形地を購入しました。建物の設計も終え、いざ造成工事を始めようとしたところ、隣地の所有者から「境界が違う」とのクレームが。

調べてみると、確定測量が行われておらず、境界杭も一部不明だったことが発覚。話し合いは難航し、工事は数ヶ月ストップ。最終的には弁護士と測量士を交えて境界確定を行うことになり、大幅な時間とコストが発生しました。

■ 教訓

境界が曖昧な土地は、後から大きなトラブルに発展する可能性があります。公図や登記簿だけでなく、隣接地所有者との立ち会いを含めた「確定測量」が実施されているかを必ず確認しましょう。


まとめ:複雑な物件ほど調査が命

上記のように、不動産には一見分かりにくい法律・契約・制度上の制限が多く存在します。とくに以下のような物件は、特別な注意が必要です。

タイプ注意点の一例
農地転用許可が必要、農業振興地域の確認
再建築不可物件接道義務、建築基準法上の制限
借地権付き物件借地契約の内容、地主との関係性
境界未確定の土地境界トラブル、確定測量の有無

調査は役所・法務局・現地確認・契約書チェックなど多方面にわたります。少しでも不安を感じたら、専門家のサポートを得ることが重要です。不動産は高額かつ人生に影響を与える大きな買い物。表面的な価格や立地に惑わされず、見えないリスクまで丁寧にチェックしましょう。


最後に

不動産は「見えない情報」にこそ注意が必要です。複雑な権利関係や法的制限を把握せずに購入してしまうと、大きな損失や後悔を招きかねません。今回紹介した実例を通じて、「調査の大切さ」を少しでも感じていただければ幸いです。

「安い物件には理由がある」「見えない部分こそリスクの本質」。不動産取引では、こうした視点が何より大切です。


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